言葉に対する洞察力の鋭い芸人が好きだ。

代表格は松本人志。尊敬の域に入る。
若手ではピース又吉がいちばん気になっている。


松本人志で最も印象に残っているのは、かなり前になるけど、
「HEY! HEY! HEY!」のゲスト浜崎あゆみとのトークで、
彼が、曲名の「SEASONS」を「季節ら」と訳したシーン。

人のみに用いられる「ら」や「たち」の本来の用法を逸脱して、
「ふぞろいの林檎たち」のように有機物につけるレトリックは一般的。
「書物たち」のように無機物につけたのは大江健三郎が最初と言われる。
松本人志はさらに進んで、実体のないものに「ら」をつけた。

浜崎あゆみの曲のタイトルって、「WHATEVER」とか「Dearest」とか、
観念的過ぎて大河的というか、意味をあまり持たないものが多くて、
そこに「季節ら」という訳が提示されたことに、僕はとても驚いた。

「SEASONS」を意訳せよと言われたら、僕は「めぐる季節」と答える。
「季節」は、実体はないが観念的に存在するので、動詞を用いることができる。

けれど、松本人志が「季節」に「たち」や「ら」をつけたとき、
「実体を有するものとしての季節」という存在が想起される。
その違和感が笑いを誘うことを、彼は理解していたのだ。